芸達者、秋田人。

Mad educator

Makoto, Tomoko Matsuura

未来への冒険に
繰り出せるのは、
帰る場所が
あるから。

秋田県 五城目町

ノマドワークという言葉が日本に登場したのが2010年頃。現在ではすでに人口に膾炙している概念であり、平日の日中にオフィス以外の場所で働く人を見かけることも、もはや珍しくない。真新しいスタイルであっても、一定の合理性を有するならば、賛否両論を巻き起こしながらも、いずれは気にかける人もいなくなり、静かに定着していくという一例でもある。

そう考えると、秋田県五城目町に移り住んで3年目になる松浦さん一家の営みもまた、いつしか当たり前のものになっていくのかもしれない。もともと住んでいた大阪で10年前に「NPO法人cobon」を、五城目移住後に「合同会社G-experience」をそれぞれ設立し、共同で経営する松浦さん夫妻。一貫して、教育の分野で様々な事業を展開してきた。

その子育て、家族形態の在り方は実に特徴的だ。小学4年生になる長男と、小学1年生の長女は、どちらも小学校に“あまり”通っていない。といっても、2人とも自分の意思で学校を休んでおり、欠席の際は学校に自分で連絡をする。そして、授業ではまだ習わない単元の勉強をしたり、のめり込むように世界各国の国旗を描いたりして、思い思いに時間を過ごしている。いわゆるホームスクーリングという形態だが、学校に一切通わないというわけでもない。学校か家か、という単純な二択ではなく、大人がノマドワークを選ぶように、子ども自身が学びたい場所を決めるというスタイル。松浦さん夫妻はその有り様を「ハイブリッドスクーリング」と名付けている。

「子どもは学校に通わなければならない」という前提を脇に置いてしまうことで、そこに新しい家族の形が表れる。松浦さん一家は、県外での仕事があるときには、家族全員で出張に出かける。電気自動車のルーフテントに寝泊まりし、打ち合わせ先にも子どもを連れていく。至るところで暮らし、働き、学んでいる。

親として、「ハイブリッドスクーリング」に取り組み、自分の子どもに最適化した学びの在り方を模索する。経営者として、その経過を発信し、これまでの制約から解き放たれた学び方を事業として展開しようとしている。生活と生業の領域が不可分に結びついた試み。頭ではイメージできても実例は皆無に等しいということに対して、その先駆者として果敢に取り組む。その根底には、「望ましい未来の到来を少しでも早めたい」という想いがある。

智子:「2040年にこんな未来が来る」と推測できるなら、そのときまで待つ必要はなくて、今からその未来に起こるであろうことをやってしまったらいい、という考え方なんです。

智子さん

教育分野で子ども向けの事業に取り組み続ける理由もシンプルだ。デジタルネイティブといった言葉が示す通り、「いつだって子どもの方が大人よりも未来に近い存在だから」。大人たちがいつの間にか失ってしまう柔軟性や純粋さ、創造性を、子どもは備えている。だからこそ、無数の広がりを見せる未来の可能性の中から、より前向きなものを選択する力が子どもにはある。そう、信じている。

実際に手掛けてきた事業を見れば、「子どもってこういうものでしょ」という枠をいかに外そうとしているかが分かる。これまで、大学や企業等と連携して実施してきた「ミニフューチャーシティ」では、100人の子どもたちが仮想通貨を用い、丸1日かけて未来の仕事を創り、未来の街を運営する。五城目町で500年続く朝市を舞台にした「キッズクリエイティブマーケット」では、デザイン思考をベースに、子どもたちが自分たちで考案した商品やサービスを実際に販売する。子どもがつくり手に回ることで、大人の方がむしろ子どもから学ばされる場面が出てくる、という。実際、「ミニフューチャーシティ」では、大手企業の社員がわざわざ子どもたちの行動をリサーチしに訪れている。

真:子どもたちは、最新の技術を当たり前に活用するし、変化する社会の最先端を生きています。そんな彼・彼女たちが理想の組織の形を考えるとしたら、従来のピラミッド型でなく、今話題の「teal(※)」のような自律分散型の組織を提案すると思うんですよ。子どもは、来るべき未来の在り方を、大人が考えるよりも早く描けるはずなんです。それならば、子どもが社会に参画することで、時代の変化に対応しきれていない既存の社会システムをどんどん刷新できる。その変化を加速させたいという想いがずっとあります。(※:20世紀後半に生まれた組織構造で、日本では「ティール組織」とも呼ばれる。上下関係がない、一人ひとりが裁量権を持つなどが大きな特徴)

ミニフューチャーシティのウェブサイト

真さん

子どもという存在に眼差しを向ける松浦さん夫妻自身からも、問いを探究し続けたいという子どもらしい純粋さを強烈に感じる。その一方で、むくむくと湧き上がる疑問をぶつけないわけにはいかなかった。なぜ、そんな2人が五城目町に拠点を置いているのか。わざわざ田舎に居を構えながら、同時に遊牧民のような営みをする意味とは何なのだろうか。

真:五城目は、私たちにとって一つのホームタウンなんです。帰るところがあるから、他の場所に遠征できる。これから何かを形にしていく上での大事な基礎を提供してくれる場所になるだろうなと感じています。

「ホームタウン」という表現が、どこか印象に残った。根差す土地があるということ。五城目町に対して、一方的にメリットを享受するわけでもなく、「地域活性化」と称して何かを一方的に押し付けるわけでもない。その土地に馴染み、自然の振る舞いや人間関係といった、ともすれば「煩わしさ」とも捉えられるもろもろを引き受け、楽しんでいる。そんなニュアンスがある。ホームがあるからこそ、自由でいられるのかもしれない。

智子:五城目に移り住んだのは、この土地が好きだからだし、ここで何かをしたいから。そこは自由にやらせてもらうけど、その分、地域や学校に対して何ができるのかを常に考えています。でも、これまでもずっとそうだったかと言うと……。

真:以前、インドネシアの貧困地域に単身赴任して、1年間そこで暮らしながら事業をしていたんですが、そのときの経験が大きいと思います。本当に課題を抱えている地域に対して、自分の存在なんて無力なんですよ。でも、何もできないかというと、関係性を結ぶことはできる。まずはその土地を好きになること、その土地の人の尊厳を守りながら関わることの大切さを実感したんですね。実際、五城目に来てからは四季を感じられるし、食卓も豊かになったし、家族と過ごす時間も増えた。他では当たり前でないことがここでは当たり前なんです。それを素直にすごいと思えることが大事なのかなと。

これまでの「芸達者」とはまた違う生活と生業の様相を見せてくれた松浦さん夫妻。特に、既存のイデオロギーを相対化し未来を見つめ続けるという感性が際立って見えた。それはもはや筋肉のようなものかもしれない。ぶれずに鍛錬を継続した結果としてのしなやかさと強かさ。と同時に、生活者として、またそこで生業をつくる者として、その地域との関係をどのように紡いでいくかについても、大切な視点をもらったように思う。理想を実現に持っていくための腕力と、その限界を自覚するというわきまえとを併せ持つこと。「人と人との関係性の中で生まれるのが事業」という真さんの言葉には、自発的かつ自然発生的に生業が生まれる系(システム)の原理を解き明かすヒントがあるかもしれない。

子どもたちが学んでいる場所

肩書きは?

真:特に思いつかないが「G-experienceプログラムディレクター」でしょうか。

智子:ないです。

自分が創造的になれる環境は?

真:struggle(自らのもがき苦しみ)が求められる環境。

智子:四面楚歌。

生業(仕事)と生活(暮らし)の距離は近い?

真:イコールです。

智子:100%同じです。10年かけて、100%同じになるよう設計しました。

やりがい、手応えはどこから?

真:子どもたちがこちらの言葉を拡大解釈して想定外のコミュニケーションをする様子を見たとき。

智子:5年前くらいにイメージしていた未来が、目の前に実現してきたとき。

松浦真, 松浦智子 / Makoto Matsuura, Tomoko Matsuura。共に大阪府出身。2007年にNPO法人「子ども盆栽」を設立(2012年に「cobon」へ名称変更)し、関西を中心に「こどものまち」事業やアーティストの交流事業を展開。2016年4月に2人の子どもと共に五城目町に移住し、合同会社G-experienceを設立(GはGojome, Gold, Good, Great……を内包する字)。一貫して、既存の枠組みにとらわれず未来の理想の姿を社会に実装することに主眼を置き、未来の担い手としての子どもの可能性を起点とした事業を生み出し続けている。

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