芸達者、秋田人。

Farm scientist

Masato Ooyama

楽しい方へ、
面白い方へ、
自分を追い込む。

秋田県 能代市

これ、ミニトマトの苗なんですけど、死にかかっているのは、わざと根っこをぶったぎっているからなんですよ。そうすると、通常は一本しかない親の根っこが分かれて、栄養をわっと吸い込むようになる。だから、無農薬なのに、抵抗力も強い。この子たちにはさっき一週間ぶりの水をやりました。だんだん、8日に1回、9日に1回……と水やりの頻度を減らしていって、8月頃には一カ月に2回のペースにしてあげます。意外と死なないんですよ。それで糖度を上げる。今年の目標は糖度15度ですね。

秋田県能代市で有機栽培を実践する変わった農家がいる、というのでお話に伺ったのは昼下がりのまだ少し蒸し暑い時間帯。パンキッシュな黒いTシャツで出迎えてくれたのが「オオヤマファーム」の大山まさとさん。早速ハウスを案内してもらったが、農場内で取り入れている施策の数々を矢継ぎ早に説明してくれた。いきなり企業秘密を見聞きしていいものか心配になるが、「いや、良く知られた手法ですよ。ただ実際にやる人はあんまりいないですね。手間がかかるので」。前職は営業兼インテリアコーディネーター。帰郷して以来、独学でオーガニック農業を始めて7年が経つ。家族で米を育てる他、独自にミニトマトの他にマイクロトマトやエディブルフラワーなど、飲食店に特化した野菜を手掛けている。

この一列は味の研究のための実験用に栽培しています。どれくらい水をやらずに育てられるのか、いろいろ試しています。あ、この列も実験用ですね。スペースが余ったので、遊びでコットンを植えました。元々、能代春慶を復活させるプロジェクトに関わり始めた縁で春慶塗に用いるウコンを栽培したんですが、「あ、染物にも使えるな」と思って。じゃあコットンを植えてみようと。そうするとコットンづくりから糸づくり、布づくりを知ってもらえる。それがイコール農業を知ってもらうことになりますから。今度、糸紡ぎや染物のワークショップも予定しています。

自分の枠を規定しない人だ、と思った。好奇心と探究心のかたまり。栽培だけでなく、収穫や袋詰め、営業、納品もすべて一人で担う多忙な日々。それでも、やりたいことだらけだ。世間がイメージするオーガニック農家とは一風変わったスタンスが垣間見える。実際、野菜作りも「たまたま空いていた畑があって」遊びで始めたという。素材の味を追求して試行錯誤した結果、行きついたのが有機農法だった。まずは実験するというスタンスは、野菜作りに留まらない。例えば、名刺を持たない、という試み。

農家になって最初の数年は名刺を作っていたんですけど、自分に負荷をかけたいんでしょうね、わざと名刺を持たないようにしました。そうすると、営業先との会話を話術や発想力で補うしかない。それが結果的に基礎固めになりました。楽な方ときつい方だったら、絶対きつい方を選んじゃうんですよ。絶対、そっちの方が楽しいから。

ゼロから始めた野菜作り。創業初月の売り上げは2,000円。県内を駆けずり回り、農家から経営者まで様々な人に会って手がかりを集める。帰郷して1年、読破した本は110冊を超えた。「本当にぎりぎりだった」と話す様子には、しかし清々しさのようなものが漂う。実験は、実を結ぶためにある。その手応えが大山さんの真っすぐな姿勢を支えている。

やっていることは、7年間で一つもぶれていないんです。農業ってただただ楽しいんですよ、いろんな可能性があるんですよって伝えたい。秋田県は農家の後継者がいないと言われるけど、儲からない以前に、楽しくないと思われている。だから、まず農家は楽しいという土台作りがしたい。すでに、高校生、大学生を育てることも始めています。僕なりに培ってきた話術や発想力を伝えていけば、もしかしたら5年後にはオオヤマファームをつぶしにかかる次世代が出てくるかもしれない。そんなことを期待しています。もちろん負ける気は一切ありませんが、その切磋琢磨の中で僕自身もまた成長できると思うんです。その未来を想像すると楽しくてしょうがない。

ここにも、「芸達者」たちの共通項が顔を見せる。一見、こだわりが強く、ときにわがままにさえ感じられるが、一方で、彼・彼女らが手掛ける一つ一つには、現代社会への眼差し、あるいは過去や未来への想像力が埋め込まれている。自らが生きられるこの世界という現実をまず受け止める胆力。個として明らかに独立しているが、孤立はしていない。承認欲求ではなく、むしろ野性的な、自ずから湧き上がる感性を信じている。

「農家は楽しいという土台作り」に向けた実験はとどまることを知らない。「もう一つ、紹介してもいいですか」と、一列に咲いた花を指さす。

これ、マーシュマロウという植物なんです。この根っこを乾燥させて煮出すと葛切りの要領でトロトロになる。そこに砂糖を混ぜて型に入れて焼くと、その名の通りマシュマロができるんです。調べ物をしてたらたまたま見つけて、面白そうだなと思って栽培してみました。だって、本物のマシュマロ、食べてみたいじゃないですか? こういうのが秋田県にまず必要だと思うんですよね。

誰に頼まれたわけでもないのに、体が動いている。もちろん、米やミニトマトで生計がきちんと成り立つベースがあるからとはいえ、「儲かりそう」という色気が介在しない。そんな彼がどんな相手と仕事をするのかにも興味が湧いてしまうが、一貫して「この人と仕事がしたい」という自分の直感に頼っているという。

「この人とこれから10年間、どういう商売ができるか」、それしか興味がないですね。自分のことは全然説明しないんです。いいなと思った相手に「出身はどこですか」、「どんな仕事をしてきたんですか」、「これからどんなことをしたいですか」って、全部聞く。いろんな人の人生を知れるのが、また面白いんですよ。しかも、その人の人生に、これから僕も関われるのなら、なおさら面白い。

以前、知人と組んでいたバンドのTシャツ

「楽しい」、「面白い」という原理原則に忠実が故の、狂気と紙一重の情熱。「バットマンとかスパイダーマンとか、思い悩む一面も持つダークヒーローに惹かれるんですよね。自分自身、そういう農家だと思います」と、去り際に語っていた。あらゆるものを区別なくエネルギーとして取り込み燃焼させなければ足りないくらいに、縦横無尽に動き続ける彼の姿を思い浮かべながら、帰路に就いたのだった。

肩書きは?

百姓商プロデューサー。

自分が創造的になれる環境は?

人との会話の中、長距離移動の車の中(畑仕事中は「無」)。

生業(仕事)と生活(暮らし)の距離は近い?

仕事も生活も、「オーガニックなものと共にある」という意味ではイコールです。

やりがい、手応えはどこから?

偶然の出会いと感動。たかが野菜1つでも人を感動させることができたとき。

大山 まさと / Masato Ooyama 秋田県能代市出身。営業兼インテリアコーディネーターを経て7年前に帰郷し、実家の米作りに携わりながら、「オオヤマファーム」をゼロから立ち上げる。現在は、飲食店専門の完全契約農家として、飲食店のニーズに応じた一般には流通しないオーガニックな野菜を手掛ける他、農業の楽しさを伝えるために農家の枠にとらわれない幅広い活動に精力的に取り組む。

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