芸達者、秋田人。

Local curator

Takahiro Oguma

常識を、
コツコツと、覆す

秋田県 五城目町

人口10,000人に満たない秋田県五城目町に、「ものかたり」というギャラリーがある。空き家をリノベーションした空間は、元の家の構造や意匠が程よく残されており、扉や什器など随所に地元の職人の技が施されているのが分かる。遠目からは町並みの中に違和感なく佇んでいるが、近づくにつれて「ここは何のお店だろう?」と思わず覗き込みたくなるような雰囲気を醸し出している。

田舎で、ギャラリー。地方で、アート。常識的に考えれば経済的に成り立つ見込みは薄そうだが、常識に従わないからこその面白さもまたあるはずだ。自分の直感を確かめるべく、再び五城目に足を運んでみたのだった。

「ものかたり」の外観(写真:小熊さん提供)

「ものかたり」を主宰するのは、2015年に地元である五城目町に帰郷した小熊隆博さん。大学院時代からアートについて学び、前職は「ベネッセアートサイト直島」にて作品や施設の運営・管理業務に携わっていた。そこで出会った奥さんとの間には2人の子どもがいて、実家ではなく、「ものかたり」の壁を隔てた反対側を住居とし、家族4人で暮らしている。アートという分野を取り扱っていく上で、なぜ、五城目に戻ることを選んだのだろうか。現在に至るまでの経緯を、落ち着きのある声で語ってくれた。

都市部では、美術の世界は「業界」としてあって、そこにマーケットがあり、制度があり、仕事があるという構造になっています。でも、僕自身は、マーケットや制度の外に関心があった。そうして、アートを仕事に出来る土壌のないところで、いかにアートの活動を成り立たせるかという発想になっていったんです。

難易度の高い選択肢をあえて選んだようにも見えるが、当の本人には力みがない。自分の感性の赴く方へ歩を進めるのは当然のことというように。「いずれ、自分で仕事を創ることになるだろう」と思い始めたのも、自然の成り行きだった。

別の仕事で稼ぎながら趣味としてアートに関わるやり方もあるかもしれませんが、僕自身は、「仕事=趣味」というか、お金を稼ぐ場面でも自分のやりたい事を差し込んでいかないと、やっていけないなとは思っていました。逆に、そう考えると、秋田や五城目という場は、一番挑戦しやすい環境だと思ったんですよね。使えるハコも見つけやすい。何よりイニシャル、ランニングいずれのコストも抑えられる。

地元の職人の手仕事が散りばめられている

発端は、自身の感覚に依るものだったが、その行き先を描くプロセスは至って冷静な思考と判断に基づいている。移動が容易になったこの時代だからこそ、自身のルーツに軸足を置くことの意義を見い出しつつあったことも一助となり、結果的に、地元に戻るという方向性が現実味を帯びていった。

直島で7年間を過ごすうちに、徐々に自分で拠点を持って動けるイメージがついてきたので、この辺りで地元に帰ってみようかなと思い立って、五城目に目を向けてみた。そうしたら、当時五城目町に移住し始めていた若い人たちとつながることができて、それがきっかけで地域おこし協力隊という形で戻れることになったんです。

生まれ育った町とはいえ、この土地をフィールドとしていくにはまだまだ関係性が足りないという自覚があった。だからこそ、地域おこし協力隊という入口は丁度良かった。ギャラリー兼住居に生まれ変わる前の物件と巡り会えたのも、地域おこし協力隊の同僚のサポートが大きかったという。

アートを仕事に出来る土壌のない五城目で、いかにアート活動を続けていくか。その具体的な手段として、町内外の機関と連携し、仕事を創っていくという道を模索する。秋田美術公立大学との地域連携型アートプロジェクト「AKIBI plus」では、狭義のアートの領域にとらわれず、編集者、イラストレーター、考古学の専門家など、多角的な切り口で五城目に光を当てることを試みた。小熊さん自身も、自分にはない視点を借りながら、五城目の日常に埋もれているものたちに一層気づけるようになったという。2016年度の展示は、美大生たちがフィールドワークの過程で採集してきた地元の人たちの「言葉」を、ワンフレーズずつ付箋に印刷し、「ものかたり」の壁に貼りだすというものだった。

アートという冠は付いていたものの、自分の話していることが展示されているらしいということで、見に来てくれた人が割と多かったんです。面白がった人が家族や友人を呼んでくれたりして。

これからの展望も紹介していただいた。画材作りに始まり1年間かけて作品を完成させる「ミカンセイ教室」という親子向けの講座。企画書には、“「Art」は、よりよく生きるためのわざ”という一文が綴られている。それはまさに、生活と生業を織りなす「芸」であり、営みはその人自身の手で創り出せるもの、というメッセージとして受け取ることができた。

市場も下地もない五城目でアートを浸透させていくことを考えたときに、地域外にあるものを持ちこんで、「これがアートだ」と言って普及させる従来のやり方には魅力を感じなかった。その土地で営まれる生活の中に、自然とアートがあるような状況をつくるべきだろう、と思ったんです。

アートという分野において“ミカンセイ“な土地は、経済性の観点では確かにハードルが高いかもしれない。しかし、小熊さんにとっては、“ミカンセイ”であることは、ゼロからつくるハードワークを要求する一方で、アートと向き合う自由度を担保する条件になっているようにも見えた。実際、「秋田に戻ってからは、心身共に鍛えられましたね」と話す。

学術的には、秋田弁は誉め言葉がほとんどないそうです。「悪くない」が最上級の誉め言葉なくらい(笑)実際、新しいことを始めたら周囲から叩かれて、諦める人も結構多いんです。そういう意味でも、秋田ではタフさって大事なんですよ。

小熊さん含め、これまでお会いした「芸達者」は、押し並べてタフだった。感性に基づき、よりよく生きようとする過程で鍛え上げられるタフさ。そして、反骨精神。「田舎でアートは食えないとか、農家ではやっていけないからって息子を県外に出すとか、そういう秋田の言説をひっくり返したい」。熱量の凝縮した言葉を、さらりと言い放つ。その意味では、完成された都市よりも、“ミカンセイ”なフィールドの方が、言ってみれば、暴れ甲斐がある。

「田舎でギャラリーが経済的に成り立つのか?」、そんなささやかな疑問は小熊さんと話している内に融けてなくなっていた。その土地で成り立つからアートをするのではなく、その土地でアートをするために成り立たせるだけだった。小熊さんが貫くシンプルな原理に触れ、こちらまで背筋がぴんと伸びるようだった。

肩書きは?

合同会社みちひらき代表、ギャラリーものかたり主宰

自分が創造的になれる環境は?

情報量少なめだけど、世界を見渡せる環境。あるいは、誰かの創造的な仕事と向き合える場所。

生業(仕事)と生活(暮らし)の距離は近い?

人が生活の1シーンをも表現の場とする環境や状況を創る仕事と言う意味で、近そうです。

やりがい、手応えはどこから?

「イナカで、アートで生計を立てるのは無理」とか、一般的な常識に挑む感覚はやりがいかも。

小熊 隆博 / Takahiro Oguma。秋田県五城目町出身。京都造形芸術大学大学院修了後、「ベネッセアートサイト直島」(香川)に勤務。2016 年、地元の秋田県五城目町にて合同会社みちひらき設立。ギャラリー「ものかたり」開設。

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