芸達者、秋田人。

Local orchestrator

Tomoya Fukushima

老舗の肉屋から、
地域の
ライフスタイルを
提案する。

秋田県 男鹿市

男鹿市船川に船木一人さんを訪ねたとき、「ひのめ市」をはじめとした未来をつくる動きを共に手掛ける仲間の存在についての言及があった。その一人が、福島智哉さん。彼が両親と共に営む「グルメストアフクシマ(有限会社福島肉店)」は、船木さんの仕事場から歩いて数分のところ。間もなく創業100年を迎える地元の精肉店で、「フクシマのコロッケ」など店頭に並ぶ総菜は厳選された素材を使用しており、地方部としては決して安くない価格設定だが、それでも根強い支持があるという。船木さんと「コーヒーだけで朝4時まで語り合える」精肉店の後継ぎであり、「ひのめ市」を共に立ち上げた福島さんもまた、男鹿という港町に新しい風を吹き込む存在なのだろう。営業中のところを、無理を言ってお話を伺うに至ったのだった。

彼に聞いてみたかったのは、自分の生活、生業とその土地の関係性にあった。これまでの旅で明らかになりつつあることとして、「Spontanious Entrepreneur」に位置づけられる人々がその土地と共生関係を築こうとする点は見逃せなかった。その土地のリソースを一方的に収奪してビジネスを展開するのではなく、自分自身もその土地の経済と文化を醸成する生態系の一部分と見なす姿勢が感じられる。福島さんの現場は、後継ぎという立場だからこそ、既にそこにある関係性も意識しながら、土地と共に生きる在り方を模索する必要性が一層際立つはずだ。そんな仮説を持ちながら、彼と店、そして地域とのかかわりの変遷について伺った。

大学進学を機に上京、食品会社を経て2009年に帰郷。店頭に立つようになって最初に直面したのは、「自分は無力だな」という挫折だったという。

大学に通っていたころから、人口が減っていく男鹿を見て、「自分が地元に帰ったら男鹿はもっと良くなる」と恥ずかしながら思っていました。実家の経営状態も良くないという親の話を聞いて、リーマンショックのときだったんですけど、自分で決断して、帰って来たんです。

自分ならもっとできる、というスタンスで、自分の意見を主張し、ときには両親の考えを否定した。しかし、すぐに父親(福島さんは「社長」と呼んでいる)が理想と信念を持って現実と向き合っている状況に対峙することとなる。

社長は、すごく根本というか、本質を大事にする考え方で。SNSでもっと情報を発信することも大事だけど、商品が揃っていなかったり、製造が追いついていない状況で発信するのは本末転倒だと。実際、現場に入ってみてその両立の難しさを実感しました。一方、両親は、1980年代から、コロッケに使うじゃがいもを無農薬のものに変えたり、店で扱うお肉も与えられた飼料に気を付けたり、すごくこだわってやってきた。お店に立っていると、たとえば50代、60代の方とも食材について話す機会もあります。この店が安全で美味しい食について考えてもらうきっかけの場になっている。

「当初は食をビジネスの手段としか見ていなかった」福島さんは、代々続いてきた店なりの在り方があること、そして自分自身をまず省みるべきであることに気づいていく。周囲にリスペクトを持ち、ときには頼れるようになったのは、高校時代から熱中してきた登山の影響もあったという。

高校、大学と部活で海外の山も登ってきましたが、「あのとき死んでたかも」という経験も何回かあって。実際、友人や先輩も亡くしています。やっぱり、命の尊さというものを考えざるを得なかったです。その内に、自分の中で、命はイコール時間であり、豊かな時間の使い方をしたいし、命を削るような時間の使い方は嫌だなっていう哲学が生まれてしまって。

生きている時間を大切に取り扱う。疲弊するまで働くのではなく、ゆとりや余裕がある人間らしさに重きを置く。福島さんが携わる「食」というものも、人間としての豊かな暮らし、家族団らんの時間を形づくる欠かせない要素だ。食べる側の幸福は、提供する側の幸福を犠牲にして実現されるべきものなのか。自ずと生まれた問いに自ら答える道を彼は選んでいく。ともすればキレイゴトのように捉えられかねないが、この店を訪れると、人として当然の願いに誠実に向き合うことの方が真っ当だと思えてくる。

以前、イタリアの田舎を訪れたときのことなんですが、スーパーマーケットや郵便局でさえ、2時間の昼休みをとるんですよ。「その時間、何してるの?」って聞いたら、「家族で食事をとっているんだ」と。それは衝撃的で。でも、みんなに求められる店なら、開店時間が限られても回るはずだ、と思ったんです。そこから、働いているお母さんが子どもも連れてこれるとか、働いているみんながそれぞれ家族の時間を大事にできる、そういう店づくりを目指すことにしました。

実際、理想を現実に置き換える試みが徐々に為されている。元々は20時までだった営業時間は、現在は平日18時まで、土曜日17時までに。同時に、値上げも実施した。もちろん、お客さんが納得できるだけの付加価値を付けた上で。定番のコロッケには必ずしおりをつけて販売しており、じゃがいもの栽培方法から生産者のこだわり、コロッケに用いる油まで、丁寧に説明されている。健全な経営に向けた努力の結果、回転率は下がったものの、利益率は向上。これで自分たち働き手の時間をつくれるという彼の言葉に、社長も妙に納得してくれたという。

昔は、大手のお店も正月三が日は休みだったのに、最近は元旦から初売りが当たり前ですよね。それも資本主義の一つの形ではあるにしても、やっぱり、家族でなく仕事優先の構造が出来上がっちゃっている。もう1回、立ち戻ろうよって思うんです。この田舎なら、それが現実的にできるでしょって。

食を通じて家族のだんらんを提供し、職場として地域にライフスタイルを提案し、地元住民やお客さんと良好な関係性を築く。健全な循環をこの土地に生み出していく。もちろん、その発信源である自分たち自身もまた、健全なリズムを刻む生活と生業に身を置く。理想が理想で終わらずにいられるのは、この男鹿という土地と、両親から引き継いだ食や暮らしへのこだわりが土台になっているからだろう。

店を出てから、購入した揚げたてのコロッケを早速頂いた。サクッとした軽やかな歯ざわりの後に、舌触りの良いじゃがいもの甘味と香りが口の中に広がる。福島さんの穏やかな口調で語られた静かな革命の一端を味わった気分になる。本物の味が家庭で食され、人間らしい暮らしが地域にもう一度根付く。そんな当たり前の理想像に強く共感している自分がいた。

肩書きは?

有限会社福島肉店 専務取締役

自分が創造的になれる環境は?

早朝の海辺、または山。妻と一緒に珈琲のむ余裕がある環境。

生業(仕事)と生活(暮らし)の距離は近い?

良い意味で公私混同。顔の見える仕事と生活の息遣いが感じられるような商店が好きです。

やりがい、手応えはどこから?

やりがいは、誰かの「おいしい」から。手応えは、お客様との会話から。

福島 智哉 / Tomoya Fukushima。男鹿市船川生まれ船川育ち。秋田市の高校を卒業後、大学と社会人生活の冒頭を東京で過ごし、2009年に帰郷して家業を継ぐ。 大正7年創業の福島肉店は「フクシマのコロッケ」が看板商品。 地域の生産者と結びついた、身体にやさしいお惣菜を家族と一緒に日々作っている。

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